ローカルニッポン

豊島区が取り組む小規模公園の未来のあり方(前編)

書き手:坪根育美
神奈川県出身。編集者・ライター。Webメディア『greenz.jp』、月刊誌『ソトコト』などの編集部を経て独立。おもに、ものづくりや働き方をテーマに雑誌、Webメディア、書籍をはじめとする媒体で編集と執筆を行う。日々取材をしながら自分自身も新しい働き方、生き方を模索中。

みなさんの家の近くには公園がありますか?
そこは今、みなさんにとってどのような場所でしょうか?

東京、豊島区。昨年の12月14日(土)に西巣鴨二丁目公園、15日(日)に上り屋敷公園で、地域住民と協働での公園づくりを目指し企画した「公園での過ごし方」を体験できる実験イベントが開催されました。この仕掛け人は、豊島区と良品計画。両者は2017年11月にまちづくりに関するパートナーシップ協定を締結し、定期的な地域との意見交換の場づくり等を通じてコミュニティ再生を目指す「小規模公園活用プロジェクト」に取り組んでいます。その最初の舞台となったのが、前述した2公園です。今回は、豊島区、良品計画、それぞれ地域住民のみなさんに当日までに辿ってきたプロセスを伺い、これからの公園のあり方のヒントを探っていきます。

前編では、上り屋敷公園のプロジェクトについてご紹介します。

「ともに育つ公園」とは?

家に眠る赤ちゃんグッズを持ち寄り、物々交換を行う「ぐるぐる交換会」の様子。井戸端かいぎ参加者の声から生まれた。

家に眠る赤ちゃんグッズを持ち寄り、物々交換を行う「ぐるぐる交換会」の様子。井戸端かいぎ参加者の声から生まれた。

豊島区は、南池袋公園、昨年リニューアルした中池袋公園や池袋西口公園など、大規模公園の整備を進めています。その一方で、区内に点在する小規模公園(概ね1000平米未満)をどのように活性化していくかも考えてきました。ハード面での整備だけではなく、ソフト面でどう活性化させていくかということが重要と考えたからです。そのパートナーとして一緒に取り組んでいるのが良品計画。地域住民をはじめとする公園の利用者とともに公園の未来をつくっていくためにはどうすればいいのか、主にソフトとデザイン面を担当しています。

プロジェクトの基本コンセプトは、「ともに育つ公園」。今あるものをいかし、ハードの整備は最小限とし、どのように利用者に活用してもらうかというソフト面が重視されています。それを象徴するのが、最初のモデル公園となった西巣鴨二丁目公園と上り屋敷公園で、行われた「井戸端かいぎ」と呼ばれる公園をともに育てるためのワークショップです。上り屋敷公園では、2019年10月に公園で第一回を行い、公園と周辺の屋内施設を含めて合計7回行いました。

12月15日(日)に行われたイベントは、井戸端かいぎで出た利用者が実現したい「過ごし方」の実験の場でもありました。

今回は、プロセスのなかで実際に感じたことなどを豊島区公園緑地課の藤井直さん、良品計画ソーシャルグッド事業部の佐藤一成さん、上り屋敷町会長の重田軍司さん、地域住民の山ノ内奈緒さんにお聞きしました。

井戸端かいぎは、最初のころが大変だった

お話しを伺った4名。左から良品計画の佐藤さん、地域住民の山ノ内さん、上り屋敷町会長の重田さん、豊島区の藤井さん。

お話しを伺った4名。左から良品計画の佐藤さん、地域住民の山ノ内さん、上り屋敷町会長の重田さん、豊島区の藤井さん。

「最初は、このままでいいという声もたくさんあったんです」と佐藤さんは振り返ります。

佐藤さん:
「はじめは参加メンバーの属性も限られていたので、多様な声を出し合うことがむずかしい状況がありました。消極的な雰囲気だったのが、4回目の井戸端かいぎからはびっくりするくらい変わったんですよね。上り屋敷の歴史をなぞった紙芝居ができるという提案もそのときにいただきました」

重田さん:
「町会では、最初の頃は今の形のままでいいものだと思っていたんですよね。でも、井戸端かいぎをやっていくなかで少しずつ方向が見えてきて我々ももうちょっと考えようとなったんですね。上り屋敷公園はある程度広さがあり、午前中は保育園のたまり場で、夕方になると犬の散歩の人たちが集まる。ただ通過するだけの人も多い公園なんです。公園というのは、そんなふうにそうっと静かに休む場所であるものだと思っていたのですが、ひとつの目標にみんなで向かった結果、たくさんの人が集まった。その光景を見てこれはとてもいいことだと感じました」

公園の利用者は、実にさまざま。これまで通りでいいと思う人がいることもあるでしょう。でも、そこで意見が合わないからとあきらめるのではなく、違う意見が出たところからよりよい答えをともに探していくことが「ともに育てる」ということなのかもしれません。当日は、町会のほとんどの方が公園に訪れたのだそう。重田さんが、顔をほころばせながら言っていた「やってよかった」という言葉が、すべてを物語っています。

12月15日のイベントでも井戸端かいぎを開催。さまざまな意見が飛び交った。

12月15日のイベントでも井戸端かいぎを開催。さまざまな意見が飛び交った。

0歳8か月のお子さんを持つお母さんでもある山ノ内さんは、お子さんを生んでから公園に興味を持ったけれども、プロジェクトに参加することになったのは予想外だったのだそう。

山ノ内さん:
「ポストにちらしが入っていたんですよね。公園のリニューアル説明会があるので来てくださいというもので、説明を聞きにいくくらいの軽い気持ちで行きました。単純に公園がどう変わるのかが気になって参加したんです。でも、説明が終わったあとにポストイットとマジックが出てきてあれ?って。グループディスカッションが始まって会社の研修みたいだなって(笑)。でも、子どもと一緒にベビーカーで散歩するようになり、産休・育休に入って時間もあったので参加してみようかなと思いました。もともと西池袋公園や南池袋公園にも行ったりしていたのですが、やっぱり近所の公園のほうがいいですね。井戸端かいぎでは、もう一人お母さんもいらっしゃっていたのですが、その出会いをつくってくれたことにも感謝しています」

今回山ノ内さんはチラシのデザインを手がけた

今回山ノ内さんはチラシのデザインを手がけた

「できないこと」を「できること」に変えていくために

町会のメンバーから提案があった紙芝居。子どもたちから大人気

町会のメンバーから提案があった紙芝居。子どもたちから大人気

では、井戸端かいぎを開催するにおいてどのような点を大切にしてきたのでしょうか。

藤井さん:
「やっぱり、私たちが主体になりすぎないことだと思います。区が用意したものを無理やりやってもらうのではなくて、地域の方や利用者がやりたいことを実現するのが今回のプロジェクトの最終目標だと思うので、脇役に徹するようにしました。また、公園では『できないこと』がたくさんあるのですが、井戸端かいぎでは『できないこと』をどうしたら『できること』に変えていけるのかというところから話し合いを進めていきました。たとえば、通常公園では火気は使えないのですが、この日は防災かまど※を使ってマシュマロを焼いてみたりしました」

※防災かまど=防災用として公園にある設備。普段は椅子として使っているもののなかにかまどが入っており、災害時にかまどを取り出せばどこでも煮炊きできる。

防災かまどの前でマシュマロを焼く子どもたち

防災かまどの前でマシュマロを焼く子どもたち

確かに近年の公園には「できないこと」に対するルールが多くありすぎて、少し窮屈な印象があります。でも、それは絶対にだめなのかというところから問い直して、「できること」を住民や利用者と一緒に模索していくことこそ、パブリックな場である公園の健全なあり方のように思います。

佐藤さん:
「公園では何ができないが掲示されていても、何ができるのかは掲示されていないんです。多かった意見のひとつに花火をやりたいというのがあったんですけど、花火がだめなのは火がだめというのが理由だと思うんですよね。同じ火でもすでにある防災かまどをいかしてであればできることがあるかもしれない、というところからはじめてみたんです。

ほかにも、1週間のうち火曜は火で遊べる火の日、水曜は水で遊べる水の日、木曜日は木登りができる木の日、というように曜日ごとに「できる」日を決めるという案も出ていましたね。住民の方からあがった意見はなるべく実現できるように考えることが、住民のみなさんを巻き込んでいくためにも大事なことだと思っています」

井戸端かいぎで出た過ごし方に対するアイデアは、前述した町会から出た紙芝居の案も含めて20にものぼったのだそう。公園でやりたいことが予想以上に住民・利用者の中に多くあることが伺える結果です。みなさんだったら、近所にある公園でどんなふうに過ごしたいですか?

今あるものをいかす、余白を残す

公園の中央にある木の周りにつくられたサークルベンチ

公園の中央にある木の周りにつくられたサークルベンチ

今回行ったハード面のリニューアルでは、「今あるものいかす、余白を残す」という部分を大切にしています。

佐藤さん:
「お金をたくさんかければいいという話ではなく、今あるものや環境を大きく壊すことなく過ごしやすく変えるにはどうしたらいいのかということを考えてきました。また、使い方を固定しすぎず利用者が自由に楽しんで過ごしてもらえることを考える。当社の商品づくりにもそんな側面があるので、そこはこの公園プロジェクトともつながっているのかなと思っています」

上り屋敷公園は、もともとベンチが少なかったりとくつろげる場所が少なかったため、公園の中心にある大木の周りにデッキ調のサークルベンチをつくったり、公園に沿って細長いベンチを設置するなど、人々が気軽に使える街の縁側をイメージして整備しました。

藤井さん:
「サークルベンチは、もともと大きく作ろうとしたのですが、地域のお祭や町会行事の支障になってしまうという住民・利用者からの意見を反映して少し小さくしました」

あるものをいかして、公園内の石積みに沿って設置されたデッキ

あるものをいかして、公園内の石積みに沿って設置されたデッキ

これまでバラバラに立てられていた公園での禁止事項看板をひとつにまとめた「お約束看板」。良品計画がデザインした

これまでバラバラに立てられていた公園での禁止事項看板をひとつにまとめた「お約束看板」。良品計画がデザインした

ほかにも意見を反映してつくられたものがあります。それが、軽トラックの荷台に工夫が施された可動式のトラック「PARK TRUCK(パークトラック)」です。これは、上り屋敷公園だけでなく、西巣鴨二丁目公園から出た声もヒントになっています。2つの公園に共通する「PARK TRUCK」と「変えられるサイン」については後編で詳しくお伝えします。

公園でできることをこれからも考えていく

持ち運び可能なモバイル遊具で「青空卓球」を楽しむ場面も。

持ち運び可能なモバイル遊具で「青空卓球」を楽しむ場面も。

地域住民や利用者とともに公園を再生していく「小規模公園活用プロジェクト」は、全国的に見ても新しい取り組みです。通過点のひとつである今回の場づくりを経てみなさんの心にも変化が生まれています。

山ノ内さん:
「イベントに来ていた近くのマンションに住んでいるお母さんたちから、次いつやるんですかという声もありました。今後は区民ひろば、保育園といった場所も交えて、今回とは違う主旨でボランティアさんなども加えてできると楽しそうですよね」

重田さん:
「一年に1回か、毎月なのかわかりませんが、またやっていきたいですね」

あくまで影の存在として、参加者をサポートしてきた藤井さん、佐藤さんは今後についてどのように感じているのでしょうか。

藤井さん:
「まだはじまりだと思っているので、目指す方向が変わっていく可能性もあります。ハード整備だけではなく、ソフト面でどういう公園づくりをしていけるのかということを、これからもみなさんと一緒に考えていきたいと思っています」

佐藤さん:
「僕は、なにかあったときに助け合えるコミュニティをつくっていくことが最終的なゴールだと思うんですよね。そのスタートがたまたま公園だった。たいていの地域に公園はあると思うので、コミュニティの場として機能したり、公園と公園が連携してなにかできるようになっていくといいですね」

正解がないことに挑戦するのは大変なことですが、だからこそそこで得た経験や感じたことは財産となるはずです。上り屋敷公園は最初の一歩を踏み出したばかり。これからどう育っていくのか楽しみです。

地域を巻き込んでいくからこそ、そのプロセスにも地域性が出るはず。西巣鴨二丁目公園の場合はどうなのか、次回の後編でじっくりご紹介したいと思います。

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