ローカルニッポン

豊島区が取り組む小規模公園の未来のあり方(後編)

昨年の12月14日(土)に東京・豊島区にある西巣鴨二丁目公園、15日(日)に上り屋敷公園で、地域住民と協働での公園づくりを目指し企画した「公園での過ごし方」を体験できる実験イベントが開催されました。この仕掛け人は、豊島区と良品計画。両者は2017年11月にまちづくりに関するパートナーシップ協定を締結し、定期的な地域との意見交換の場づくり等を通じてコミュニティ再生を目指す「小規模公園活用プロジェクト」に取り組んでいます。その最初の舞台となったのが、前述した2公園です。今回は、豊島区、良品計画、それぞれ地域住民のみなさんに当日までに辿ってきたプロセスを伺い、これからの公園のあり方のヒントを探っていきます。

前編の上り屋敷公園に続き、西巣鴨二丁目公園のプロジェクトを中心にご紹介します。

「地域のためになにかしたい」と思っていた住民が参加

左から豊島区役所の小澤さん、西巣鴨新田町会の田崎さん、地域住民の芦田さん、良品計画の大友さん。

西巣鴨二丁目公園のプロジェクトについて伺ったのは、公園の西側、西巣鴨新田町会の田崎不二夫さん、地域住民の芦田航さん、豊島区役所の公園緑地課で小規模公園担当活用グループのグループリーダーを務める小澤丈博さん、良品計画の生活雑貨部で企画デザインを担当している大友聡さんの4名。

西巣鴨二丁目は、区民ひろばと公園が同じ敷地内にある特徴的な場所なのですが、区民ひろばには人が集まるのに、公園はがらんとしているという状況が続いていました。そこで、上り屋敷公園と同様にハードの整備と合わせて、公園利用者や地域住民と公園をともに育てるためのワークショップ「井戸端かいぎ」が行われました。昨今増えている禁止事項ばかりが目立つ公園ではなく、できることをみんなで探していける公園にしていくことが目的です。前述した12月14日のイベントを最初のゴールとして、地域住民を中心に豊島区、良品計画がサポートしていく試みがスタートしました。

まず、「公園でやりたいことは?」という問いかけを軸にした井戸端かいぎを開催。そこでもっとも多く出たのがバーベキューしたい、花火をやりたいといった公園で火を使いたいという声でした。この声は井戸端かいぎを重ねて、最終的に防災かまどを使って作ったいももちをイベントで提供する実験につながっていきました。

この流れの中で住民たちをとりまとめて引っ張っていったキーマンが芦田さんです。芦田さんのこの熱意の根底には、以前より感じていた地域への思いがありました。

芦田さん:
「豊島区に住んで19年、西巣鴨に越してきて6年になります。西巣鴨は巣鴨から続いている長い商店街があります。小学5年生の子どもがかわいがってもらっていて、温かい人情が残るまちなんだなと思っていました。でも巣鴨と比べると寂れてしまっている印象があるし、商店街の方々は引退するときは店じまいという話をしている。そんな状況をなんとかしたい、この土地に対して僕になにかできることがないのかなという気持ちが以前からありました」

そんなときに舞い込んできたのが、今回のプロジェクトの話だったのです。

「私たちも協力したい」という声

第一回の花壇づくりのワークショップで参加者たちが考えたデザイン。

西巣鴨二丁目では、防災かまどを使った実験のほかにも住民たちの手による花壇の整備も行われました。

小澤さん:
「以前よりこの公園の花壇を整備していた地元有志の『花いっぱいグループ』のみなさんから花壇を広げて、公園のハードづくりにも関わっていきたいという提案をいただきました。そこでお披露目イベントに向けて花壇づくりのワークショップをすることにしたんです。話を聞いてみると『花いっぱいグループ』のみなさんも、新しい仲間をどう探せばいいのかわからないという課題があったそうです」

もともとあった花壇のスペースをさらに増やし、花壇づくりのワークショップは合計2回開催されました。芦田さんのご家族やその友人たちも参加して、子どもたちも親も夢中になって花の植え替えを楽しんだそう。

小澤さん:
「これまでの公園は人がいなくて寂しい印象だったため、地域でつながりたいと思っている人がそんなにいないのではと思っていたのですが、全然そんなことはなかったんです」

第二回の花壇ワークショップでは、デザインに沿って植物の植え替えが行われた。

縁側のような空間をイメージしたウッドデッキ

新設されたウッドデッキで読み聞かせ中。

今回のプロジェクトでの試みは、ハードの整備・デザインも含まれています。上り屋敷公園も含めてその役割を担ったのが大友さんです。前述したとおり西巣鴨二丁目公園は、区民ひろばには人が集まっているのに公園には人がいないという状況が続いていました。それを変えるために作られたのがウッドデッキでした。

大友さん:
「区民ひろばに集まっている人たちに公園に出てきてもらうためのデザインを考えました。縁側のような屋外なのか屋内なのかあいまいな空間を区民ひろばと公園の境界に造れば、お互いにコミュニケーションを取れると思ったんです。ウッドデッキという形にしたのは、自由になんでも使えるようにしたかったから。たとえば椅子にすると、座るという使い方だけに制限されてしまいます。デッキなら寝転んでもいい。さらに高低差をつけて、子どもから大人まで座りやすい高さを組み合わせて造りました」

田崎さん:
「ウッドデッキはすごく楽しいですよね。話を聞いたときに2階ではよく将棋や囲碁をみんなしているから、将棋盤を下におろしてウッドデッキでやればいいじゃないかと話していたんですよ。夏の夕方、蚊取り線香を焚きながら、ウッドデッキで将棋なんて文字通り『縁台将棋』で、粋じゃないですか」

大友さん:
「それは、理想として描いていたのですごくうれしいです。もう少し暖かくなったら、ぜひ将棋や囲碁を外でやってもらいたいですね」

大友さんが行うデザインとは、人と人がつながるきっかけづくりと言えるのかもしれません。
モバイルコンテンツとして生まれたPARK TRUCK(パークトラック)

公園でくつろげる場所がほしいという声が多かったことから生まれたPARK TRUCK。

ひとつの公園だけでなく、さまざまな公園で活用できる「モバイルコンテンツ」として生まれた可動式のトラック「PARK TRUCK(パークトラック)」も大友さんのアイデア。軽トラックの荷台が昇降式になっていて、そこを立ち上げるとコーヒーなどの飲み物を提供するお店に変身! 区や一緒に開発協力してくれる自動車メーカーのダイハツ自動車工業とともに企画してから1年ほどで完成させました。

大友さん:
「この公園の滞在時間が短いということを地域住民から聞いて、何があったら滞在時間が伸びるかなと考えたんです。それで温かい飲み物があると足を止めて休んでもらえるかなと。さらにそこに本があると公園に長く滞在してもらえるかな……というようにアイデアが広がっていきました」

小澤さん:
「最初に聞いたときはほんとにやるのかなと思いました(笑)。これまでそういったものを区が管理するという前例がなく、いろいろと整理しないといけないこともありました。でも、図書館の本をのせたり、はあとの木*の代理販売を組み合わせるなど区のコンテンツを盛り込むようにすることで、お互いにやりたいことがうまくひとつの車の中で叶った。それはうれしかったですね」

*はあとの木…区内の障害者福祉施設がものづくりを介して、人との多様な関わりを目指すネットワーク。焼き菓子製造を行う3事業所が製造したクッキー、パウンドケーキなどをパークトラックで代理販売している。

「できること」がひと目でわかるサイン

「できる」のサインの上部は住民が気軽に使用できるインフォメーションボードとして機能する。

そしてもうひとつ、デザイン面で忘れてはならないのが公園内に立つサインです。公園のサインといえば、「これをやってはダメ」といった禁止事項が書かれている看板が思い浮かびますが、大友さんたちが考えたのは「できること」のサイン。

大友さん:
「禁止看板は行政の方が意識的に立てていると思ったらそうではなくて、公園課に住民の方から苦情が入ったことにより仕方なく禁止看板を作っていったという背景を聞いたんです。そこで逆転の発想が生まれました。禁止じゃなくて、『できる』を書く看板をつくろうと。この『できる』は、当然周りに住んでいる方たちが決めるのですが、それを気軽にしたかったんですね。それで、『できる』を取り外して交換できるものにしました。可変式というのと、誰もが関われるデザインにした点がこだわりです」

小澤さん:
「禁止看板が乱立しているのは、見た目にもあまりよくないので区としても今回のことをきっかけに変えていきたいと思っています。ですが、掲げるできることはすべての公園が同じではなく、小さな公園ごとに特徴づけてそれぞれがどういう公園なのかを明確にしていくことも重要だと感じています」

大友さんたちが手掛けたこのサインは、地域住民がつながるツールでもあるのです。みんなが使う公園だからこそ、禁止看板ではなく「できること」というポジティブな言葉のほうが似合っているように思います。

小さな公園からのまちづくり

ユニバーサルなデザインのウッドデッキは、アイデア次第でさまざまな使い方ができる。

井戸端かいぎのプロセスとハードの整備を経て迎えた14日のイベントは大盛況。その体験は、みなさんの中で新たな思いを作り出しています。

田崎さん:
「自分たちが企画して感動しちゃいけないと思うんだけど、やっぱり感動的でしたね。よかったなあって」

芦田さん:
「みんな、いきいきしていたと思います。子どもたちも大学生も手伝ってくれました。とくに僕は、そこでの井戸端かいぎで田崎さんが言っていた『イベントばっかり毎回やるわけにはいかない。日常をどうしていくのか考えていかないとだめだよね』という言葉がすごく心に残りました。公園が媒体になっているけれど、街のコミュニティ全体に関わっていることなんですよね。これからそこをどうデザインしていくかが大事なんだと思います」

大友さん:
「まさに公園課がやろうとしていることですよね。小規模からまちづくりをしていくという」

小澤さん:
「公園を利用している人だけでなく、公園を普段使っていない人も巻き込んでコミュニティを増やしていってほしいと思っています。そこで求められているのはゆるいコミュニティ。これが◯◯委員会のような形になってしまうと、ハードルが上がってみなさんの足がまた遠のいてしまう。盛り上がろうという人とそうでない人の差がでてしまっても新しい人が離れていってしまうわけです。そこをどうやって解決しながらゆるいコミュニティをつくっていくかが今後の課題ですね」

そう、イベントはゴールではなく、新たな目標に向かうためのはじまりなのです。

大友さん:
「これからこの公園をつくっていくのは、住民のみなさんです。今回のプロジェクトのコンセプトである『ともに育つ公園』の言葉どおり小さいところから実績を積み上げて公園を育てていけるように、今後もなにかできたらいいなと思っています」

芦田さん:
「今回僕は、遊び場をもらったような気持ちなんです。『みんなが使って楽しい、コミュニケーションの場』という幹がぶれなければ地域住民がやりたいことを、やってみたらいい。そして、なにか始めようとしてわからないことがあればとりあえず小澤さんに聞けばいい。公園をよりよいものにするために一緒に考えてくれますから。僕も、『このまちを廃れさせない』という命題のためにこの公園を使わせてもらえたらと思っています」

西巣鴨二丁目公園のプロジェクトは、すでに次のフェーズを見つめています。まだまだ課題はあるでしょう。壁にぶつかることもあるかもしれません。でもそんなときは、井戸端かいぎで住民も企業も行政もごちゃまぜになって、また話し合っていけばいいのです。それは上り屋敷公園でも同じ。大規模公園がまちに与える影響の大きさについて想像するのは簡単ですが、たとえ小さな公園でも、いや、地域により根付く小さな公園だからこそ、場が変われば、まちが変わる。その大いなる可能性を2つの公園から感じました。

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