シラハマ校舎の過ごし方vol.5 ~シェアサイクルで巡る白浜<3>~
安房郡(現・南房総市)白浜町出身。東京―白浜の二拠点&別居婚生活を経て、2013年に白浜へUターン、夫と同居を始める。母校である長尾小学校を利活用し、2016年よりファミリー・ビジネスでシラハマ校舎を運営している。
「真冬菜種のサ~、コラショ 花盛りヨー」というのは、vol.3でお伝えした白浜音頭の一節。冬野菜である食用菜花のピークを過ぎると、次は鑑賞菜花のシーズンがやってきます。国道、あぜ道、サイクリングロードを彩り、町全体を甘い香りで包み込む黄色い絨毯。この時期は夏に比べて虫や雑草が少なく、アウトドアも快適。ぜひ自転車の旅をお楽しみ下さい。
小戸:リゾートエリアと初午祭り
まずはシラハマ校舎から千倉方面に4km走ったところにある小戸(おど)。バスターミナル・白浜駅からほど近く、旧町役場(現在は南房総市の地域センター)、消防署分署、信用金庫、郵便局などがあり、隣の下沢地区と合わせて町の機能の中心となっています。海辺のリゾートマンションやホテル、レストランからは太平洋を見下ろすことができ、公園から突き出た向タタミ島には石鯛目当ての釣り人も。
山側の見どころは神社仏閣。集落の北の端にある古峯神社から回ってみましょう。現地の石碑によれば、江戸時代にこの地区が大火に見舞われた際、再度災難に遭わないよう祈願した村民の押本氏が県北の古峯山に詣でたのが始まりとのこと。日本武尊(ヤマトタケルノミコト)を御祭神に家内安全、鎮火の神様として帰依されているそうです。隣の寺は曹洞宗の満願寺。境内には里見杢入道の墓があり、ここでも白浜と里見一族との関わりをうかがい知ることができます。
少し南下して稲荷神社。3年に1度の初午(はつうま)祭りは南房総市無形民俗文化財に指定されており、かっぽれや獅子舞など多彩な芸能が奉納されます。大人の演目もありますが、子供たちが白塗りメイクを施し、色鮮やかな着物で踊る姿は何とも愛らしく、見ごたえがあります。
原:漁村の風景と磯だまり
原は里見義実の菩提寺である杖珠院(じょうじゅいん)からスタート。立派な門構えと重厚感のある本堂、庭木も手入れが行き届いており、山の借景も含めて白浜で最も存在感のあるお寺だと思います。そしてここにも、里見氏の墓や各種有形文化財が保管されています。
サイクリングのおすすめは海。原の海岸線は黄土色の岩々が歳月をかけてえぐられた独特の地形が魅力です。例えばコミュニティ広場にそびえ立つスフィンクスのような岩の塊。度重なる台風で岩の崩落が進み、現在は立入禁止になっていますが、数年前までは遊具のある公園として開放されていました。
少し東に進むと造船所が見えてきます。海にせり出したこの出島には漁業組合の施設や養殖場があり、20軒ほどの民家が国道との隙間を埋めるように密集しています。自転車一台がやっと通れるくらいの路地には、魚の匂いと昭和の暮らしのリズムが響いていました。
ところで白浜の漁場は、点在する岩礁に砕石やコンクリートを付け足して、陸(おか)と行き来できるように道が作られているのですが、地元の子供たちにとってはこれが恰好の遊び場。原にも宝来島という岩の塊があるのですが、ここは小さな梯子が渡してあるだけ。アスレチック代わりとしては、なかなかの難易度です。
名倉:海水浴場と花畑
宝来島の対角にあるのが、名倉の海水浴場。岩場の多い白浜の海岸では珍しくきめ細かい砂粒が特徴で、1年を通して裸足で歩くのが気持ちいい。夏になれば海水浴場が開き、海の家も立って賑やかになります。路線バスの停留所から歩いて1分もかからず、公共の交通機関で行ける貴重なビーチです。
山側は住宅地と畑になっており、まっすぐなラインで区画割りされた平野ではキンセンカやストックなどの花づくりが盛んに行われています。そして民家を少し外れたところに天狗神社、神明神社。いずれも高台にあり、田園の向こうに水平線が重なる眺望が楽しめます。
塩浦:ドラマのロケで一躍有名に
続いて「里見姓」の多い塩浦地区。ここはドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」のロケ地として、ファンのみなさまによる聖地巡りが始まったばかり。元々開けていた海水浴場ですが、駐車場とトイレが整備され、枕木を並べた遊歩道やブランコなどの遊具類も。さらに、緩やかにカーブを描いたビーチを円形劇場の舞台に見立て、観覧席のような階段が公園へ向かって連なります。
この美しいCカーブを上から見下ろせるのが浅間神社。国道から高い位置に見える祠(ほこら)を目指し、徒歩で階段を上ります。強風の日は立っているのも怖いくらいですが、頂上から見下ろした町は絶景。高層のホテルやリゾートマンションの先に大海原が広がります。
塩浦にはまだまだ見どころがあり、この浅間神社の裏手には不動の滝。「塩浦」のバス停から山に向かって徒歩3分。滝を囲んだあたり一帯は頼朝桜が少しずつ花開き、春めいた里山の風景がここにあります。
乙浜:むかし鯨、いま釣果
最後は白浜町の東の端に位置する乙浜(おとはま)。シラハマ校舎から国道を千倉方面に6.6キロ。明治の大合併までは乙浜村として独立していた地域です。ここの自慢は大きな漁港。農水省から第4種漁港に指定されており、沖合漁業の避難港として地元以外の漁船が避難できる港です。捕鯨が盛んだった時代には、白浜で唯一、鯨が解体でできる場所でした。「鯨が上がれば乙浜の港が真っ赤に染まる」と、明治生まれの曾祖母が目を剥いてうそぶく形相が忘れられず、いつの日からか見たことのない情景が瞼に浮かぶようになりました。今も漁港の片隅にある鯨塚や鯨の供養碑である海野亀塚の前では、手を合わせずにいられません。
現在、賑わいの中心は釣り客、釣り船、釣り餌。都心部からの集客を目的に各釣船がウェブサイトを持ち、GPSで魚の居場所を掴んでSNSやブログで釣果を披露。ここは白浜で最もIT化が進んでいる地区・業種かもしれませんね。
せっかくですので、更に1kmほど走って安房白浜港灯台を終点としましょう。野島崎灯台のような観光名所ではありませんが、教会を思わせる出で立ちは、ペッパーミルの様な可愛らしいフォルムが特徴。生活感のない孤高の灯台はどこか異国情緒があり、フォトジェニックな魅力があります。
「シェアサイクルで巡る白浜」では、白浜町の風景を14の地区に分けて紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか。白浜サイクリングのよいところは、信号が少ないこと、迷子にならないこと、ところどころに公衆トイレがあること。
ジョギングやウォーキングはハードルが高いと感じている人は、ぜひ自転車で町を巡ってみて下さいね。
文・写真:多田佳世子
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