若手有機農家が共同栽培に着手-南房総オーガニック(前半)
首都圏から車で1時間半、海山の自然溢れた南房総では、都会あるいは他地域から移住しての就農者が少なくありません。過去「農業離れ」が続いてきましたが、暮らしやライフスタイルといった側面から農業が見直される時代に入ったともいえるでしょう。今回は、南房総で農業を営む30代から40代の男女を中心とする「南房総オーガニック」という団体にフォーカスして、最近の取り組みや背景となる農的な暮らし、また農業経営について全2回でお伝えしたいと思います。
南房総オーガニックの誕生
2012年の秋に、館山市、南房総市で新規就農した若手有機農家が集まって結成したのが「南房総オーガニック」。きっかけは安房農業事務所が開催した有機農業者向けのスキルアップセミナーでした。有機農業は現在その拡大に向けて国が動き出していますが、推進が始まったばかりで栽培方法が確立されていない分、指導の難しい側面もあります。ならば個々で活躍する生産者が集まって情報交換や勉強会を行うところから始めようとのことで安房農業事務所から呼びかけがあり、親交を深めた参加者らによって「南房総オーガニック」が立ち上がりました。
団体はこれまで、有機農業を実践する地域の視察や講師を招聘して勉強会を行ってきましたが、主な活動は2013年7月に始まった「日曜マルシェ」。毎月第一日曜日に「館山パイオニアファーム」にて各種賑やかな催しによる直販会です(次回マルシェは4月5日)。「顔と顔の見える関係」を第一にした南房総オーガニックらしいイベントで、それぞれの野菜や栽培方法について直接話を聞くことができるところも消費者に支持されています。
共同栽培したそら豆を中心に無印良品有楽町店前でマルシェ開催が決定
そんな南房総オーガニックですが、昨年から新しい試みが始まりました。1つはメンバーによる「共同栽培」。そしてもう1つは「新規就農を希望する研修生の受け入れ」です。後者は次回の記事にて詳しくお伝えしますが、「共同栽培」について現会長である田嶋勝也さんにお話しを伺いました。
「南房総オーガニックは、個々の栽培方法に価値をおいて季節野菜を多品種栽培している農家が多いのですが、品目を絞ってメンバーみんなで栽培する取り組みを始めました。これは、各農家の農法を学び合う意図もありますが、より助け合いの作業を増やしていく目的があります。実は、今そら豆をみんなで生産しており、5月16日には無印良品有楽町店の前で13時からマルシェを開催することになったので、ぜひ遊びにきてください。房州の在来種「房州早生一寸」というこの地域特有の美味しいそら豆です。他にも各種旬野菜を揃えて参上します。」
有機農業ですので、個々の生産者による生産量には限りがあります。そこでメンバーみんなで協力し合って、特定の品種を栽培しようという試みが始まったのですが、これは人気のある南房総オーガニック野菜のファンにとっては耳寄りな情報といえます。
そして5月に無印良品有楽町店の前でマルシェが開催されるとのこと。なかなか都内から南房総へ足を運ぶことは難しい人も、この機会にぜひ南房総オーガニックの野菜をお楽しみ頂けたらと思います。
安房いろは農園 田嶋勝也さん/有子さん
会長の田嶋さんは、元食品添加物の香料を開発していた調香師。10年間続けたこの仕事を辞めて、約6年前に妻の有子さんと南房総へ移住しました。
「元々農業にあまり興味はなかったんですが、妻が20代に農場巡りをしたり、南房総でエコハウスの管理人をやっていたこともあって次第に影響を受け始め、結婚と共に移住しました。添加物を作っていたことから、食品についてよく知っていたので、無添加への憧れは常にありましたね。そこで有機農業を始めたのですが、なかなか独学ではうまくいかず、移住1年後ぐらいから先輩有機農家のところで研修をさせてもらって、今があります。」
ほとんどゼロから有機農業をスタートした田嶋さんご夫婦。ちょうどお子さんが生まれた時期でもあって、本格的に農業を始めるにあたって1年間研修制度を利用しました。この先輩農家との出会いも「産婦人科」だったというのですから驚きです。移住は出会いの連続であることも、その醍醐味といえるでしょう。
「現代の家族の幸せは多種多様で食生活もさまざま。だけどやっぱり、「おうちのご飯が一番」であってほしい。顔の見える作り手が送った米と野菜を、お母さんが調理してくれて、「おいしいね」って一緒に食べる。きっとそこに幸せの原点みたいなものがあるんじゃないか。私たちが送っているものは食材じゃなくて、もっと別のものだと思っています。」
安房いろは農園では、現在年間70品目ほどの野菜や米、そして味噌や玄米餅といった加工品を生産しています。そんなお二人の目標は、食を通じて食卓に幸せをお届すること、でした。
びろえむ 大山宏子さん
南房総オーガニックでは女性農家も活躍しています。その一人大山宏子さんは、3年前に都内から南房総旧三芳村へ移住した元花屋の店長さん。移住前にWWOOFという制度を使って1年間全国を回り、南房総に移住して間もなく屋号の由来ともなる農家レストラン「じろえむ」にて有機農業の研修を始め、今年1月で2年間の研修を終えて独立しました。
「花が好きで花屋に勤めていたんですが、どこか大量に仕入れて、売れなかったら大量に捨ててしまう、という消費社会との隔たりを自分自身に感じるようになって、よく南房総の海にきては自然の癒しを求めていました。今は、少量ですが大切なお客さんのために野菜やお米を丁寧に栽培するというこの農業の形にとても満足しています。」
有機農業を実践する傍ら、大山さんはみんなで楽しめるイベントやコミュニティの集いも積極的に開催しています。
「よく東京の生活から一変したでしょ?と聞かれるんですが、実は皆さんが思うほど大きな変化はないんですよ。もちろん女一人で田舎に来て農業をするって珍しいので無理もないんですが(笑)、だからこそ食べ物に困らずに、楽しい仲間もいる、素朴だけど豊かなこの暮らしを女性ならではの目線で伝えていきたいと思っています。」
大山さんは最近念願だった古民家を借り受けたそうで、今後この古民家を利用し、都会の人々に様々な体験や宿泊をして貰うとのこと。旬野菜パックの販売のみならず、消費者の方々と蛍をみたり野草を採ったりと、田舎暮らしを知ることができる場として開放され、都会と農村を結ぶ場になると良いですね。
さて、「いろは農園」田嶋さんご夫婦と「びろえむ」大山宏子さんをご紹介したわけですが、ユニークな経歴を持って現在農業に取り組む人の多い南房総オーガニック。その活動の紹介は後半へ続きます。
文:東 洋平