ローカルニッポン

房総ジャンボリー/広域連携で地域の魅力を発信


2014年5月民間研究機関「日本創成会議」により自治体の存続が危ぶまれると指摘された全国896市町村のうち、千葉県内では特に圏央道域外の地域が人口減に歯止めがきかなくなる状況に置かれていることが示されています。これに対し南房総と九十九里沿岸の自治体やNPOは改めて特色ある移住促進に力をいれていますが、小さな市町村が個別に活動を行っているだけではなかなか移住希望者に声が届きにくいもの。そこで移住促進の新たな活動として立ち上がったのが「房総ジャンボリー」。房総半島南部の館山市から九十九里浜南端のいすみ市にわたる地域で、そこでの未来を考える人々による広域連携の取り組みをご紹介します。

房総ジャンボリーLive .0

2015年4月5日、鴨川市の古社天津神明宮にて音楽を中心とした野外イベント「房総ジャンボリーLive .0」が開催されました。出演者は、館山市からいすみ市までの地域で活躍する地元のアーティストで、房総のこだわりの作り手市「房総スターマーケット」との共催でもあり、多くの人々が神社境内に集い、地元の音楽や産品と飲食を楽しみました。

房総ジャンボリー開催場所の天津神明宮

房総ジャンボリー開催場所の天津神明宮

“プレイベントなのでLive .0と銘打ったのですが、想像以上に盛り上り幸先のよいスタートになりました。その後東京茅場町にて2度ほど出張PRイベントを行わせて頂きまして、いよいよ10月25日には第一回目となる房総ジャンボリーLive .1.0開催です。開催にあたっては、自己満足に陥ったり仲間だけで盛り上がる閉鎖的なイベントにならないよう、地元の方々との交流とつながりを大事にすることに配慮したいと思っています。また、アーティストには生演奏にこだわっていただき、パフォーマンスの質自体も気をつけたい。それによって、この地での暮らしを楽しむ人々にとっての、象徴的な場を作り上げていきたいと思いますので、ぜひ遊びにきてほしいです。”

話し手は、いすみ市の地域情報発信・移住促進団体「いすみライフスタイル研究所」の江崎亮さん。各地域の移住促進団体が協力する「房総ジャンボリー」企画の中で、2011年から続けられてきた会議に道筋をつけ、活動資金捻出のために「ちばのWA地域づくり基金」にて寄付金を公募するなど、イベントの根幹を支えてきました。それではどのような展開で、イベントを企画することになったのでしょうか。

江崎亮さん

江崎亮さん

過疎化のすすむ房総半島の「J」ライン

“2011年ちょうど震災の前後で、千葉県の過疎地域で活動する移住促進団体が集まって「だっぺ会議」というのをやってきました。会議では各団体の抱える問題や今後期待される展開について話し合ったのですが、まずは今やっている活動に少しプラスアルファして、活動にドライブがかかるようなことをやろうと。そこで出た案として、都市在住の人々へ「房総」を知ってもらうきっかけとして、何らかのキーフレーズとシンボルマークを共有して発信することになりました。これが「房総ジャンボリー」なんですよ。”

房総ジャンボリーマーク

房総ジャンボリーマーク

「ジャンボリー」とは、ボーイスカウトで知られる世界スカウト機構主催の大会名称ですが、「中津川フォークジャンボリー」という音楽祭があるように、エリアや世代を越えて多くの人々が集まる場やイベントにも用いられる言葉。それぞれの地域の移住促進の垣根を越えて集まろうという意味をこめて「房総ジャンボリー」という名前とマークが誕生しました。

フリーマーケット「自由広場」を支える鴨川市天津神明宮氏子の方々との房総ジャンボリー Live 1.0の打ち合わせ

フリーマーケット「自由広場」を支える鴨川市天津神明宮氏子の方々との房総ジャンボリー Live 1.0の打ち合わせ

“千葉県内南部の内房から九十九里にかけて「J」の字を描く地域は、特に人口減少が進んでいます。もちろん熱心に移住促進の窓口を設けているのですが、待っていても潜在的な移住希望者は訪れませんし、まだまだ都市部に声が届いていないのが実態です。また、もっと大事なこととして、この地に住まう人々が暮らしを楽しんでいることをお見せすることがあると思うんです。移住相談だけでは実際のところ、どういう土地なのかわかりにくいところもあるじゃないですか。それでシンプルにイベントを行って、田舎暮らしの楽しさを、自分達が楽しく暮らしている雰囲気を見せることで伝えよう!ってなったのです。”

「房総ジャンボリー」の名付け親は、ローカルニッポンニュースでもご紹介したNPO法人おせっ会理事長の八代健正さん。そして、イベントの場所を提供しているのはニッポンのローカリストにてご紹介した岡野大和さんが禰宜を務める天津神明宮。もちろん鴨川市のフリーペーパー「KAMOZINE」などとも連携しています。他にも南房総市和田町の活性化に取り組む「和田地域づくり協議会WAO!」やアートの側面では「いすみ現代文化振興会」も企画運営に関わり、「J」の字地域の連携を実現する房総ジャンボリー。今後はイベントだけでなく、対流人口増加のための広域的なパンフレット作成も行っていく計画だそうです。

房総[ほろ酔い]ジャンボリーTokyo vol.1 東京茅場町にあるソーケンソーシャルサロンにて

房総[ほろ酔い]ジャンボリーTokyo vol.1
東京茅場町にあるソーケンソーシャルサロン
にて

江崎さんが語るように、移住の決断には様々な要因が関わっています。ある人は特徴的な自然環境に触れて、ある人は「人」と出会って、またある人は地域ビジネスを念頭にいれているかもしれません。このように入口が多方面に広がる移住を促進させるためには、まずは知ってもらうこと、そしてよりリアリティのある体験や交流の場を増やしていくことが重要になってきます。その意味で房総ジャンボリーの取り組みは、より多くの都市住民に、南房総と繋がる「きっかけ」を創出するのではないでしょうか。

2015年4月に開催された房総ジャンボリーLive.0の様子

2015年4月に開催された房総ジャンボリーLive.0の様子

Jターンという移住のあり方

最後に、もう1つの「J」として江崎亮さんがいすみ市へ移住した経緯をご紹介します。

“早くも移住して22年が経とうとしているのですが、私がいすみ市に引っ越したのは友人が隣町の一宮で暮らし始めたことがきっかけです。結婚して東京に住み、東京で仕事をしていたものの、もう少しゆっくり空気の良いところで生活したいねぇなんて話していた矢先、友人に誘われて一宮に遊びにいきました。すると、どこか生まれ故郷の熊本を思い出しましてね。このあたりなら東京にもすぐに出られるし、ゆっくり暮らしていけるかなと思って物件を探し、一宮の隣いすみ市に移住を決めたんですよ。”

UターンやIターンに代表される移住者の流れですが、最近ではJターンというニーズも増えているようです。Jターンとは、地方出身の人が故郷に戻るのではなく、都市近郊の田舎に移住すること。東京から車で90分ほどの南房総は、故郷を思い出すJターンの移住先としても適しているように思います。

大原漁港「港の朝市」で出店するいすみライフスタイル研究所

大原漁港「港の朝市」で出店する
いすみライフスタイル研究所

地域の人々とのコミュニケーション、つながりを作る場「フリーマーケットinちまち」(ちまちマ) いすみライフスタイル研究所主催

地域の人々とのコミュニケーション、つながりを作る場「いすみライフマーケットinちまち」(ちまちマ) いすみライフスタイル研究所主催

元は大手経済新聞社で経済分析とデジタルメディアの企画開発の仕事をしていた江崎さん。移住後にインターネットメディアの可能性に目をつけ、今ではSOHO事業の先駆けのようにWEBやマーケティング関係の会社を経営し、その傍らで移住促進活動に協力しています。そんな柔軟に時代の流れを読み解く江崎さん、これからも房総ジャンボリーの旗振り役として広域地域の協力体制を作り上げ発信し続けてほしいと思います。

文:東 洋平