ローカルニッポン

2020年シラハマ校舎 台風から始まる新たな挑戦<後編>

書き手:多田佳世子
安房郡(現・南房総市)白浜町出身。東京―白浜の二拠点&別居婚生活を経て、2013年に白浜へUターン、夫と同居を始める。母校である長尾小学校を利活用し、2016年よりファミリー・ビジネスでシラハマ校舎を運営している。

昨年の台風経験を振り返った「2020年シラハマ校舎 台風から始まる新たな挑戦<前編>」に続き、<後編>は災害に強い地域を作るためにシラハマ校舎がどのような役割を果たしていくのか、を事業目標「シラハマ4.0プラン」を通してお伝えしていきます。これから災害に対してどんな備えをし、それがコミュニティの中で機能するには何ができるのか、一緒に考えてみませんか。

シラハマ4.0プラン

去る11月30日、シラハマ校舎代表・多田朋和が千葉大学による講演会「千葉COC+ (*)2019年度フォーラム ローカルちばでキラリと光る!」に登壇し、シラハマ校舎の次期事業計画「シラハマ4.0プラン」を発表しました。具体的には「農業」「エネルギー」「教育」「コミュティの創造」の4本柱。飲食と不動産業を主とするシラハマ校舎には新規性の高いものもありますが、いずれも台風での被災経験がトリガーとなり、同時進行で取り組むことになりました。

* COC+…官・民・学が協働する、地(知)の拠点大学による地方創生推進事業

【農業】リスク分散の畑づくり

新たに購入したブドウの苗。台風後は複数の畑に分散して植え付けることにしました

新たに購入したブドウの苗。台風後は複数の畑に分散して植え付けることにしました

昨年の台風ではスーパーや直売所の被災に加え、道路の通行止めで物流が滞ったこともあり、南房総は一時的なモノ不足を経験しました。食料では、特に生野菜に窮したことを記憶しています。元々シラハマ校舎でも野菜は作っていましたが、台風を生き延びたのは一画のプチトマトと地面の下のサツマイモだけ。無残になぎ倒されたピーマンやキュウリを片付けながら、リスク分散の畑づくりについて考えてみました。

(1)収穫時期をずらして、いつも何かしらの作物がとれるようにしておく
(2)台風到来の直前に早期収穫を行う
(3)屋内に取り込めるプランター栽培・原木栽培を増やす
(4)常温長期保存が可能な根菜・イモ類を増やす
(5)野菜・果樹・きのこ類など、作物の種類を増やす

シラハマ校舎ではワイナリーを目標に数年前からワイン用のブドウを育てていますが、台風後は食用のブドウも植えました。さらに陣中見舞いの梨がきっかけで、桃や夏ミカンの木も追加で植栽。一般的な果物は火や調味料を使わずに食べることができ、皮や種はそのままコンポストに入れてしまえば土に還ります。ビタミンや酵素を手軽にとれるという点でもメリットが大きく、料理ができない時こそ必要だと感じました。

とはいえ、私たちは農業が計画通りに進まないことを重々承知しています。それでも撒いた記憶の無いこぼれ種から芽が出たり、思わぬ豊作に恵まれたり…これまでも小さな喜びはたくさん経験しました。そんな偶然の産物を大切にしながら、これからも畑づくりを続けていきたいです。

【エネルギー】停電中でも電気が使える環境づくり

所有する海辺の畑のひとつ。この海風を再生可能エネルギーとして利用することが目標

所有する海辺の畑のひとつ。この海風を再生可能エネルギーとして利用することが目標

「もう発電所から送電してもらう時代ではないのかもしれない」復旧予定が後ろ倒しになる中、そんなことを考えるようになりました。大きな電力を必要とする鉄道会社や大規模工場はさておき、一般住宅や商業施設では既に太陽光パネルで発電し、売電・蓄電する仕組みを取り入れているところがあります。

シラハマ校舎の母屋は南向き・横長で太陽を捉えるには好物件ですが、小屋への反射光や全体的な景観を鑑みると現実的ではありません。そこで周りの建物に影響がないエリアにオフグリッド(送電線と繋がっていない)の小屋を建てる計画を立てました。このオフグリッド小屋にはソーラーパネルとパワーコンディショナー(*)、蓄電池を設置し、屋内で電化製品が使えるようにします。小屋には排水循環システムも設置予定で、今まで垂れ流しになっていたエアコンの水を循環器にかけ、飲料可能にすることを計画しています。そして運用については、災害時の避難所としてだけではなく、普段はキャンプ用の宿泊施設として使用できるようにすることを考えています。

このほか、海岸沿いに所有する農地に小型風力発電設備を設置する計画も同時進行中。これは白浜の名物でもある強い季節風を活用したもので、国の再生可能エネルギー促進政策を意識しています。シラハマ校舎は経済産業省によって地域未来牽引企業に選定されたこともあり、小規模事業でも環境保全に取り組むことで社会に貢献していきたいと考えています。

*パワーコンディショナー…発電した直流電流を家庭内での利用や蓄電池への充電、売電などに適した交流電流に変換する機器

【教育】休校でも勉強できる環境づくり

旧教室を利用したホームスクールタイプの学習塾。AIとのマンツーマン授業が行われている

旧教室を利用したホームスクールタイプの学習塾。AIとのマンツーマン授業が行われている

台風直後の報道にもあった様に、千葉県内の学校では屋根材や外壁が大きく剥がれたり、雨漏りで教室の中にたまった水がなかなか掃けないといったことがありました。白浜町内の小学校は大きな建物破損こそ無かったものの、停電や断水が続き、結局1週間ほど休校になりました。

校舎が使えなければ授業ができない―果たしてそうでしょうか。「学校が休校でも教科書を進めたい」シラハマ校舎の教育事業はそんなシンプルな思いから始まりました。取り入れたのがAI(人工知能)を使った「Qubena(キュビナ)」という学習サービス。これなら学校に行けなくてもタブレットと通信環境さえあれば勉強が続けられます。そして災害時にいきなり割り当てるのではなく、普段から学習塾として使うことで、AIに学習進度を把握させておく狙いがあります。

通常はシラハマ校舎の一教室で勉強し、シラハマ校舎が被災したり、インフラが確保できない場合には通信環境のあるところに移動して教材に取り組むことができます。普段と違う状況に置かれることは子どもにとってもストレスですが、場所が変わっても、いつもと同じことができれば多少なりとも日常を感じられる時間になるのではないでしょうか。

こういった多様な学び方は今の時代に求められている側面もあり、2016年に成立した教育機会確保法(*)に供し、学校外での多様な学びの機会を確保する施策と歩みを共にするものだと考えています。

*教育機会確保法…義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律

【コミュニティの創出】二拠点共同体から生まれたネットワーク

災害の瓦礫で出来た石垣花壇。これも小屋の利用者の作品です

災害の瓦礫で出来た石垣花壇。これも小屋の利用者の作品です

<前編>でも触れましたが、台風の後は無印良品の小屋とシェアオフィスのメンバー、レストランやコンサルティング事業でお付き合いのあったお客様からたくさんの支援を頂きました。みなさん基本的にはお客様なのですが、いつの間にやら、ブルーシートや食料などを遠慮せずに頼めるような間柄になっていました。

そして物資を届けたついでに庭の片付け。建物被害がなかったとはいえ、シラハマ校舎のシンボリックなプラタナスは、大幅に枝を折られて無残な姿。台風の直撃を受けたその週末、小屋暮らしのファミリーが手作業で枝を拾い、薪としてまとめてくれました。また、土木作業が得意なクラインガルデン組は、撤去したフェンスのコンクリート基礎や大中様々な瓦礫を集めて石垣の材料に。ついでに倒木も切りそろえて土止めにし、台風の前よりも立派な花壇ができあがりました。

私たちは小屋暮らしの利用モデルのひとつとして、リトリート(避難場所)という役割を掲げています。これは仮に都心部が災害にあった場合、避難できる生活スペースと安心できるコミュニティを南房総に作っておくということを目的とした提案でした。しかし今回は想定の真逆で助けられる立場になり、この土地をまたいだコミュニティのありがたさをひしひしと感じました。引き続き、このコミュニティを大切に育て、お互いに大変な時には気軽に手を差し伸べたり、好意に甘えられるような緩やかなネットワークを作っていきたいと思います。

これからのシラハマ校舎

ただいま石畳造りの真っ最中。1個15~20㎏の石を毎日少しずつ敷いていきます

ただいま石畳造りの真っ最中。1個15~20㎏の石を毎日少しずつ敷いていきます

シラハマ校舎は今年で5年目、運営を行う合同会社ウッドを設立してからは10年が経ちました。そこには相も変わらず、終わりのないシラハマ校舎の完成に向けて早朝から夜更けまで休むことなく作業を続ける代表・多田朋和の姿があります。独立独歩で目標に向かう多田の姿勢は、必ずしも全ての人に受け入れられてきたわけではありません。

この地に移住して10年の間には様々なことがありました。それでも事業の拡大や房総の可能性を語る多田には、新しい知識を補填し、現状を発信し、掛け値なしに支援をしてくれる仲間が次々と増えていきました。大変な状況でもイベントに協力してくれた地元の友人たち、台風直後に駆け付けた二拠点生活のメンバーたち。キャンセルで空いた部屋を埋め、レストランでワインを空ける遠来の客人たち。礼を言うのが苦手な代表に替わり、私がこの場を借りて謝意をお伝えしたいと思います。 みなさん、ありがとう!これからも頑張ります。

リンク:
校舎と小屋とコミュニティで描くライフスタイルのデザイン/シラハマ校舎
シラハマ校舎~廃校に再び人が集まるまで~
2020年シラハマ校舎 台風から始まる新たな挑戦<前編>