ローカルニッポン

南房総発、新しい子育て応援の形

南房総発、新しい子育て応援の形


「地方での子育て」。このテーマは「自然豊かな環境で子どもを育てたい」という都市在住の子育て世代にとって大きな関心事となってきました。そのため若年層の流出に悩む地方自治体は独自に子育て支援制度を設けるなどこの世代の呼び込みに力をいれています。今回はこうした自治体の支援とは別の観点から、南房総の子育てライフをより豊かにしようと活動している「あわぼぉんネット」という団体の新しい取り組みをご紹介します。

子育て応援情報サイト「あわベビキッズ!」OPEN

お話を伺ったのは、南房総全域(館山市・南房総市・鴨川市・鋸南町)をエリアとする子育て支援団体「あわぼぉんネット」共同代表の岡田尚香さんと藤井美津子さん。岡田さんは中学生と小学生のお子さんをもつベテランママで、藤井さんは3歳と昨年6月にお子さんが誕生したばかりのママ。そんなお二人が代表を務めるあわぼぉんネットは、主に乳幼児を育てているママが自主的に活動している団体で、2013年に子育て応援情報サイト「あわベビキッズ!」を開設しました。

「あわベビキッズ!」は、大きく分けて2つの情報発信を行っています。
①南房総地域の子育てMAP「あわぼぉんマップ」の掲載
②季節や旬のイベント情報をママ目線で伝えるブログ

あわぼぉんネット

あわぼぉんネット
(中央上段:岡田さん 左下段:藤井さん)

①のマップは、2012年にあわぼぉんネットのママ達が作り上げた子育て支援の冊子をWEB上で一部公開したもので、南房総全域の子育てに役立つ施設やスポットがまとめられています。これに対して②のブログは、主に会員の現役ママ達が足を運んだ場所や旬な情報を発信するページで、子連れで楽しめるスポットや、オムツ替えができるなど子連れで利用しやすい飲食店、間もなく開催されるイベントの紹介がママ目線でされています。

これに加えて、地域の情報発信サイトと連携もなされており、このサイトを見れば探したい情報が見つかるようにできている便利な「あわベビキッズ!」。南房総で子育て中の方、また興味のある方は参考にしてみてはいかがでしょうか。

それにしても、3市1町とエリアの広い子育て支援サイトがどのようにして立ち上がったのでしょうか。

自主上映会を通して、各地域の子育て団体が結集

あわぼぉんネットが結成されるきっかけは、2011年7月『うまれる』という映画の自主上映会を行うにあたって、南房総中の子育て支援で活動している人々、またはこの地域の子育ての行方に関心の高いママ達が実行委員会を作ったことにあります。もちろん南房総にも子育て支援に関わる団体がいくつもありますが、携わる対象やエリアが異なるためお互いの活動は知ってはいても、交流がほとんどなかったとのこと。

そんな中でいざ集まってみると、もとより地域思いのパワフルなママ達、地元の課題についても和気あいあいと話し合いが深まり、安房(=旧行政区:現在の南房総)全体で協力しようと立ちあがったのがあわぼぉんネットです。

子育てMAPを発刊

団体が設立されて、さっそく取り掛かったのが「あわぼぉんMAP」という冊子の制作でした。南房総全域の子育てに有益な情報を集めたMAPの制作で、
①安心してお産をし、子育てできるまちづくり
②3市1町の子育てママ達と、安房の魅力を共有
③自然あふれる安房地域での子育て情報を発信
することを目的として2012年の7月に発行されました。それぞれのママの持ち前のスキルを活かしながら、自分達が欲しいと思う子育てマップを作ろうと役割分担が行われたこともあって、子育てに特化した質の高い地域情報冊子ができあがり、内外から注目を集めました。

子育てMAP制作中の様子

子育てMAP制作中の様子

MAP制作の経験をもとにWEBサイトの立ち上げ

親子deお料理教室 お月見だんごの会

親子deお料理教室 お月見だんごの会

こうしてMAPが出来上がってから9カ月後にWEBサイト「あわベビキッズ!」がオープンします。実はMAPの制作段階から「WEBと連動した形で情報を継続的に提供していきたいね」という話が会の共通意見としてあったそうです。残念ながらMAPそのものは完売してしまって現在は入手できませんが、もとより紙媒体の情報は時が経過すると古くなってしまうもの。MAP制作時に培ったスキルや知識そして、ネットワークを生かしてWEB媒体で情報を更新することで継続的な発信が可能となったのですね。

現在は産院や商店、様々な活動団体の支援を受けながらサイトを運営しつつ、年に一度の大運動会や季節の料理教室など、子どもと気軽に楽しめる旬を大事にしたイベントも開催しながら、地域での子育てネットワークを広げているあわぼぉんネット。その活動の大きな目標は子育ての「縦(=世代)と横(=地域内外)のバリアフリー化」にあるといいます。

地方の子育て「バリアフリー化」を目指して

都心と同様に地方でも核家族化が進み、また共働きで子どもを育てる家庭が増えています。ひとり親家庭も少なくありません。さらに、個人や団体、産院、公共施設などの活動や支援によって、南房総の出生率は千葉県で比較的高い水準にありますが、子育て家族そのものが減っているのが現状です。温かい人柄・土地柄あふれる田舎とはいえ、昔ながらの世代を越えた家族、地域による子育て交流(=縦の子育て)と子育て家族同士の交流(=横の子育て)が同時に弱くなりつつあるといえるでしょう。

そこで、「あわベビキッズ!」を見てみると、子育て中のママがイベントやスポット、日常のことや絵本の紹介など多種多様な話題でブログを書いています。育児中は予定が立てづらいですが、ネットは24時間手が空いた時にできるので、無理なく情報を発信して、好きな時間に読んでいるとのこと。また、年に数回のイベントは、3市1町の垣根なく、老若男女みんなで楽しむリアルな交流の場。サイト上で告知を行い、広いエリアに呼びかけます。

時代や子育てに適したツールとしてネットを用い、子育て家族の交流の輪(=横の子育て)を広げつつありますが、「将来的にはパパやおじいちゃん、おばあちゃん、子どもを愛するすべての人が気軽に利用してもらい(=縦の子育て)、より一層、南房総で子育てのしやすい環境づくりができれば」と、岡田さんと藤井さんは語ります。

ママとベビーのHAPPY TIME

ママとベビーのHAPPY TIME

お話を伺っていて興味深かったのは「子育ても喉もと過ぎれば…」という言葉でした。出産・育児とは、人生の大きな1ページをなすにも関わらず、期間としては比較的短く、そのためか育児中に得た経験値を次の世代にシェアし活かすことなく終えてしまうことが多いといいます。「あわベビキッズ!」のようにママ目線の自由な投稿の場が、今後より住みやすい地域づくりの参考となって、みんなが子育てというテーマを共有できるようになると良いですね。

文:東 洋平