ローカルニッポン

新宿でジビエを食べながら考える!獣害から考える地域づくりや里山生活


地方への移住が世の中の耳目を集める中、民間主体で始まったユニークな取り組み、「南房総2拠点サロン」。「毎月水曜19時新宿で南房総に会おう!」をテーマに様々なジャンルで、新宿の登壇者も参加者もお酒を片手に語り合う気軽なトークセッションです。2018年6月13日のスタートを皮切りに、毎月テーマを変えて行われており、これまでスポーツ、起業、移住というテーマで開催してきました。第4回目となる今回のテーマは「南房総✖獣害」。静かな熱狂に包まれた当日のレポート。参加者の声も合わせてお聞きしました。

新宿と南房総をつなぐ架け橋サロン 無限の可能性を探ろう

今回も「南房総2拠点サロン」の会場はシェアオフィスHAPON新宿。
「南房総×獣害」というニッチなテーマ性でしたが、近年は「罠ガール」や「山賊ダイアリー」など狩猟専門のマンガも人気が出るなど、狩猟や獣害に対する関心は高まっています。南房総への「暮らし」の嘱目と縄文狩猟採集文化への関心も相まって、当日は会場を埋め尽くすほど多くの参加者が来場しました。それでは、3名のパネリストの発表に移っていきましょう。

自然環境調査員から獣害対策の道へ

一人目の沖浩志さんは、国立公園管理の仕事を2年間、自然環境調査員の仕事を11年経験した「生きもの調査」のプロ。

亥年のB型、猪突猛進マイペースな性格。小さな頃から父親の影響で転勤族として川崎や大阪府の吹田等へ、また仕事の都合で仙台、埼玉など日本各地を移動。現在は、奥さんの実家のある館山市に住み「地域おこし協力隊」としての活動を開始。主に館山市での役割は「獣害対策支援」で、生息情報発信等を行っています。

「幼少から大の生きもの好きで、特に好きなのが蛇。マレーシアに行った際には、黄色と白の模様が綺麗な蛇がいたのでで思わず捕まえてみたら現地の人が「噛まれたら即死する蛇だ」と青ざめていて(笑)調べてみたら「マルオアマガサ」という猛毒の蛇でした。」

長い間、自然環境調査の仕事に関わってきたことから、「生きもの」を中心にした南房総の里山生態系と獣害対策についてのお話と、そこを踏まえ何をすべきかということについて語りました。

蛇を首に巻いてほほえむほど、すべての生きものを愛している沖さん

蛇を首に巻いてほほえむほど、すべての生きものを愛している沖さん

“里山とは「人間が地域資源の利用をしていたところ」のこと。昔の里山は、地域資源を十二分に活かしていました。南房総の植物には樹木やスダジイ、マテバシイ、杉、赤松、孟宗竹、ソテツ等があります。例えば、かつて九州から持ち込まれたマテバシイは、戦前の薪や炭の利用で広がり、今では南房総全域に存在します。マテバシイは薪や炭に使い、ソテツの葉は都会に売る、カヤは茅葺屋根や田畑の肥料にする等、持続的な環境利用がなされていました。しかし、戦後から現代にかけてのエネルギー革命で、燃料が石炭から石油に切り替わり変化が起きてきました。「地域の自然を破壊してエネルギーを利用するのではなく、山は保護しましょう。」という「自然保護思想」。里山の資源を使わず、石油や木材、肥料や食糧も中東、東南アジア、アメリカなど海外から輸入する「一時的な環境利用」に変わりました。以前は、地域資源を人が満遍なく使っていた里山。地域資源をうまく活用できた種は爆発的に増加したものの、活かせなかった種は減少。つまり、「獣害」とは、エネルギー革命後に里山生態系のバランスが崩れて一部の種類が増加した現象とも言えるのではないでしょうか”。

沖さん 登壇

里山における獣害対策でできること

沖さん曰く

”1つは、地域の資源を知ることです。歴史も含めて地域の資源を知り、里山の情報発信をすること。今日の主催者の永森さんや参加者の永井さん等とグループを組んで房総に住む生き物の質問にインターネットで答える「房総生物よろず相談所」という活動を展開中です。「地域の自然や生きもの」に関心を持ち、里山の自然を知るきっかけになればいいですね。これからは、罠の設置方法など含め「体験イベント」なども企画中です。都会の人にも里山の生きものに興味を持ってもらい、できれば最終的には移住して地域の自然を利用してもらうことが「生態系のバランス調整」につながる。「移住」が、そのまま「獣害対策」になれば一番いいなと思います。”

サラリーマン時代は、漠然と田舎暮らしに憧れていました。現在は、鋸南町に移住し非常に充実した楽しい日々を送っています。鋸南町は良いところですので是非遊びに来てください。

サラリーマン時代は、漠然と田舎暮らしに憧れていました。現在は、鋸南町に移住し非常に充実した楽しい日々を送っています。鋸南町は良いところですので是非遊びに来てください。

第二の人生を鋸南町で 山岳ガイドから猟師へ 今は鉄砲を背負って猪を捕獲

次は、鋸南町地域おこし協力隊の黒澤徹さん。2017年の12月から「獣害担当」として活動。前職は旅行会社のサラリーマンでした。山登り専門の旅行会社で、スキーを担いで雪山を登ったり子供たちと登山をしたりという山岳ガイドとしても活動。50歳を機に、第二の人生として思い切って会社を辞め、新しいジャンルの仕事をしていこうと鋸南町に移住をしました。今では、獣害担当として鉄砲を背負って山に入り猪を捕っているそうです。

熱心に話をききいる参加者の皆さん。都心にも獣害の被害は広がりつつある。

熱心に話をききいる参加者の皆さん。都心にも獣害の被害は広がりつつある。

”鹿や猪、猿などの野生動物が農作物を荒らす獣害の被害額は全国で175億円。なかでも千葉県は、平成29年で3億7000万円。残念ながらこの数値は、長年停滞しており改善されている様子はありません。鋸南町は、千葉県の中でも人口流出が止まらない過疎地域でもあり、農業の担い手も年々減ってしまっています。耕作放棄地が増加し、被害金額や被害面積だけでは実際の状況を把握することは非常に難しい実態があります。

農作物の被害としては、猪による鋸南町の特産品の「食用なばな」の踏み倒しや日本水仙を猪が掘り起こし鹿が食べるという被害が出ていたりします。”

狩猟エコツアーや獣道トレッキングで都市住民との交流を図る

獣害対策の3本柱は、「被害防除、個体数管理、生息地管理」。具体的には、電気柵や金網柵などの侵入防止柵で田畑を囲むことで被害を防止しています。”猪の推測生息数は94万頭。捕獲対策としては、箱罠やくくり罠、あるいは囲い罠等を使います。例えば、箱罠で捕獲し、電気止め刺し器で捕獲。その後食用として最後までいただく、一連の自家消費を積極的に行い対策をしています。鋸南町は、猟銃も盛んで、巻き狩りなどで冬場は毎週山に出向きますが、狩猟者の高齢化で銃を手放す人も増え、「担い手不足」が懸念されます。そこで、鋸南町では、より多くの人に房総に関心を寄せてもらうため「狩猟エコツアー」や「獣道トレッキング」など都市住民と房総住民の交流を図るイベントを多数行い、さらに解体ワークショップやジビエ料理ワークショップなども開催予定です。その際はできるだけ地元の人を巻き込んで一緒に鋸南町を盛り上げていこうと考えています。元々旅行会社勤務の経験を生かし、ツーリズムを通じて地域振興につなげられるような活動をしていきたいですね。

特殊な無線LPWAを獣害対策に生かす

フォレストシーの時田義明さんは、現在55歳。当初はファーマーズアイという名前でしたが、森から海へをスローガンに、無線や捕獲支援だけでなく、森里山川自然全ての再生に関わっていければという思いで2017年の4月に社名変更を。「本当は、55歳くらいで引退し野生動物の仕事や自然保護関連の仕事を」と考えていた矢先、時田さんの友人がLPWA通信など特殊な無線の使い道を相談してきました。そんな折、「農業全体で一番困っているのは、『獣害』だ」という声を聞き、思い切って第二の人生をかけることに。LPWAなどの無線を獣害対策に生かそうと開発を進めたのです。そして生まれたのが、中山間地里山を「安心安全便利」な地域にするために無線LPWA通信を使用すること。この電波の実証実験を最初にしたのが房総の館山という縁もあり、本日はこの南房総二拠点サロンに参加されました。

株式会社フォレストシー代表取締役 時田義明さん

時田さんは「自分は袋屋のオヤジでして」と話しており、ワインや酒類を入れつつ水を入れても濡れない「アイスクーラバッグ」などを手がける共同紙工株式会社の代表取締役でもあります。

時田さんは「自分は袋屋のオヤジでして」と話しており、ワインや酒類を入れつつ水を入れても濡れない「アイスクーラバッグ」などを手がける共同紙工株式会社の代表取締役でもあります。

IoT化でどこにいてもリアルタイムに罠の状況を共有できるオリワナシステム

箱罠にかける通信機は省電力。”マグネットセンサーがあり箱罠やくくり罠が作動しますと手元の端末でリアルタイムに通信が来ます。現在は、許可を頂き親機を南房総市役所の上に設置し、さらに鋸山の田畑の上にも中継機を据え付けました。この2年近く、行政が獣害対策に尽力している全国各地を回っています。主に、岡山県美作市、静岡県東部農林事務所、福島県須賀川市など、既に40地域の自治体などに導入して頂いています。”全国的に解体処理施設は数多いですが、ほとんどが猟師さんの自家消費の延長線上です。ハンターさんが非常に高齢になり、山の見回りもままならないということも大きな問題です。私たちが開発した「オリワナシステム」の使用で、罠の作動状況をリアルタイムに監視できるため、見廻り作業の効率化と早期駆け付けによる食肉利用時の品質向上と動物福祉を考慮できます。”房総市役所に設置している親機をはじめ、伊予が岳や鋸山においている中継機が狩猟の際にIoT化されることによって、ハンターさんや解体処理施設の人、行政の方などみなさんが同時に、罠の状況や位置など同じ情報をシェアできるという利点があります。そしてできればこの南房総の安房地域に若い人たちを呼び寄せる活動を推進していきたいと思っています。”

命の大切さを育む 解体処理施設から食育までHEGURI GAKKO構想とは

また、1年以上前に南房総市へ提案した食育学校「HEGRI GAKKO」構想があります。

捕獲されたイノシシの命を頂くことを核とした地方創生モデルです。解体処理施設だけではなく、ジビエレストラン・ワークショップとサイクリング、低山ハイキングを融合させながら、命と自然の大切さを都会の人に学んでもらいつつ、”解体処理施設自体は、毎年捕獲数が一定せず黒字にはなりにくく、誰もがやりたがらないビジネスではありますが、ロケーションが素晴らしい安房地域の貴重な資源を生かしていけたらと思っています。ここにいるみなさんにもなんらかの形でご協力いただくことはあるかなと思いますので、こんなこともしている会社もあるのだと頭の片隅に置いていただければ幸いです。”

質疑応答の時間

サロンはその後、質疑応答に入り、活発な意見が繰り広げられました。登壇者はそれぞれの立場から「狩猟」について「獣害」についての現状や今後の可能性について解答。実際に週に三回「猟師工房」にてジビエの解体をされている永井弘明さんからの質問は、当事者の立場から実感のこもった「止めさしの厳しさや解体士の育成や確保」についての鋭い質問がなされました。また、トレイルランなどのスポーツと狩猟を結びつけることはできないかといったユニークな視点での提案など、南房総や獣害、そして移住について、参加者みなさんが他人事ではなく自分事として捉え活発な質疑応答がうまれ、そして懇親会へと続きました。

懇親会では参加者の一人にお話を伺うことができました。岡山県の中山間地域で育ち、現在いずれ何か故郷にできることはないかと最近狩猟免許を取得され、南房総にも定期的に足を運び、皮剥、解体、精肉加工、納品という一連の流れをインターンで経験された西川裕樹子さん。

”山岳地域、農山村地域では、取り組みや課題は地域でも少しずつ違います。私自身がどの様に狩猟という手段を通して日本の生態系に何ができるのか、どうしたいのかということをしっかり考えていきたいと思っています。”とのことでした。

(左)参加者の西川裕樹子さんと(右)猟師経験者からの立場でお話しされた永井弘朗さん

(左)参加者の西川裕樹子さんと(右)猟師経験者からの立場でお話しされた永井弘朗さん

南房総×獣害というテーマでしたが、狩猟、里山、住んでいる地域(都市、南房総含め)によってなど各々の視点で、当事者意識が芽生えていく様子が手に取るように感じられました。「南房総2拠点サロン」は、サロン形式なのでお酒を片手に気軽に参加可能です。第四回南房総2拠点サロン。次回以降のテーマは「サラリーマン」ほかにも「大学生」「林業」などテーマ候補を随時考えております。新しいユニークなテーマも募集中です。興味ある方は記事末リンク「南房総2拠点計画」のページをご覧ください。南房総2拠点サロンでの出会いが、南房総と都市をつなぐ架け橋となり、特色の異なる南房総エリア全体の活性化に繋がることを願っています。

文・押木 真弓

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